昭和46年度インターハイ レポート

装備のアイディア

 思いもよらぬ課題が出された。それは何か一つでも装備に工夫をし、それについて100枚プリントして提出せよ、というものだった。我々は暑さでふやけた脳味噌を大いにこねり回した。結局考えついたのは、グランドシートの四辺を吊り上げて皿のようにし、外からの土や水の侵入(その時のシートはビニール製で、水は通さない)を防ぐという方策である。その他にも、薄いストッキングを履くとか、帽子に日よけのヒラヒラをつけるなどした。

 もちろん計画書も作らねばならない。大きさを西洋紙の1/4の大きさで縦長にした。前年に国体に出場した白百合学園の影響もあったが、何よりもポケットサイズは便利だった。内容は、できるだけ必要なものだけにして、不必要と思われたものは全て切り捨てた。それでも10ページくらいにはなった。表紙をグリーンの模造紙にしたせいもあって、今までにないくらい良くできた。

 装備で足りないもの、不備だったものは全て揃えた(しかし気に入ったものはあまりなかった)。新しいアタックザック(青)も買った。会場が南国なので、シュラフを持たないことにしたら荷物が急に少なくなって、キスリングでは大き過ぎパッキングがみっともなくなる。大きさもさほど大きくなく比較的パッキングが楽なのがアタックだということになり、そうしたのだった。また、ニッカホースも薄手のものにした。ピンク色の綿のもの。毛糸のものと比べたら、前者は夏のポロシャツで、後者は夏の”どんぶく”のようだった。カッターシャツも、と一時は話題に上ったが、予算の関係上そうもできなくなってしまった。

 そのようにして、頭の中が熱気と汗とでごちゃごちゃにしながらも、一通りの準備を滞りなく済ませたのだった。

気仙沼から、阿波池田へ

 気仙沼駅の2番ホームで、父兄、OB、先輩や後輩、友達の見送りを受け、まるで集団就職者が上京するような気持ちでひとまず仙台に向かった。「これから我々は四国に行くんだ。剣山に登るんだ」という気持ちは、隣のボックス席でふたり寄り添ってネバネバ手にくっつくチューインガムを思わせるようなアベックが気になるような、まだその時点では、オブラートのような薄っぺらなものだった。

 仙台で上野行きの寝台急行に乗り換えた。そこで渡辺先生と合流。また、顔見知りの先生方から見送りされ、慣れない握手などをしたせいか、特に白百合学園の女の先生に一番にされたせいであったのだろうか、今まではあまり気がつかなかったが、やはり我々は期待されているのだなと肌で感じることになった。

 車中では眠れぬ夜を過ごし(あまりに汽車が揺れるから)、体ではだるさを感じていた。その体ですぐに、東海道新幹線(新大阪行き、ひかり)に乗り継いだ。新大阪に着いてみると、ただならぬ騒ぎが耳に入り込んできた。台風のせいである。ホームには人がごった返し、いつやむか分からない風が吹きまくっていた。そんなこんなでようやく宇野行きの汽車に乗ったのは、予定時刻より約1時間後であった。

 宇野に着いても風は止んでいなかった。一時、連絡船は行くのかなあと不安に思ったりもした。宇野連絡船は、瀬戸内海の荒波にガツンガツンと悲鳴をあげ、酔っ払いのようによろよろしながら、普通なら45分くらいで行けるところを約1時間かかり、ようやくの思いで高松に着いた。その日は高松に泊まり、その翌日、主会場の阿波池田へ行くことにした。

 そこでは風が弱まっていた。曇っていたにいろ、雨は降る気配を感じさせなかった。゜「いよいよだなぁ、もう帰るに帰れないなあ」という気持ちが、矢のように私の心を射抜いていた。

阿波池田の熱気

 駅の出口を出るとテントが2つ立っていた。そこを通りかかった時、冷たい麦茶がお盆に乗って「どうぞ」と飛んできた。それを飲み干し目のかすみを取ると、南国の太陽がアスファルトをジリジリと睨みつけていた。日陰に目をやると、ザックの傍に見慣れない山男山女たちが立っていた。「いよいよだなあ」という切迫感が熱気とともに体を覆っていた。

 宿に着き、ひと段落つけて買出しに出た。そして、右も左も分からない街の中をほっつき歩いた。入る店、入る店、必ずどこかの県の選手がいた。それは至極当たり前のことではあったが、なんとなくやりにくかった。

 街の中では山男山女たちが氾濫し、それらだけの世界のような錯覚を覚えた。どこにいてもどこを歩いても、それが目に入った。旅館の前を通る時など、「◯◯高校御泊所」などと書かれた紙をチラチラ眺め、仲間たちがたくさんいることを認識できる。それが楽しくさえ感じるようになってきた。

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